柘榴哀歌

紅い紅い 柘榴の口づけは 背伸びしても 届かない

家を出て あの角を曲がった先に
あいつはいて
いつも少しうつむいて 僕が通る度に
少し 頬を赤らめていた

あまりに恥ずかしがりやのあいつが
あるひこっそり僕に囁いた
「毎日2度もあなたとの逢引き 楽しみにしています」
それは夕暮れ 確かに僕は
初めて あいつの声を聞いたんだ

それから毎日2度 僕はあいつと逢引き
といっても 自転車であの角を通る瞬間
それでも僕はおめかしをして 出かけるようになった
あいつはやっぱり恥ずかしがりやで
どんどん 頬を赤らめていった

あまりに恥ずかしがりやのあいつが
ある日強い口調で僕に言った
「明日の夜満月の下で どうしてもあなたと逢引きがしたいです」
さしあたり僕には予定が無かったので
初めて あいつと契りを交わした

そうして 満月の 夜が来て
僕は 一張羅で出かけた

あいつはなんと股を広げて
あいつななんと笑っていた
紅い血種がぼろぼろこぼれ
紅い歯がぼろぼろこぼれ
それでも
あいつは僕に気がつきもせず 
ただその形相のままを悦んでいた

家を出て あの角を曲がった先に
あいつはいて 
いつも少しうつむいて 僕が通るたびに
どんどん 黒く朽ちてゆく

あいつを食べなかったおかげで
僕は
満月と

紅い紅い 柘榴の口づけは 背伸びしても 届かない
 

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